1987年7月4日FM東京で放送された「ウィークエンドファンタジー」に中島みゆきがゲスト出演している。
薬師丸ひろ子との対談をまとめてみた。
薬師丸ひろ子とセーラー服と中島みゆき
薬師丸「今日のゲストは中島みゆきさんです。
どうもこんばんわ」
みゆき「こんばんわ中島です、どうぞよろしくお願いします」
番組の雰囲気に合せてなのか少ししっとりした感じで登場した中島みゆき。
薬師丸ひろ子は、1987年7月6日にリリースしたアルバム『星紀行』で中島みゆきから『空港日誌』と『未完成』の楽曲提供を受けている。
そして、この番組から1年後の1988年には、中島みゆきの『時代』をカバーしてシングルリリースするなど、わりと中島みゆきとご縁が多い。
薬師丸は、中島みゆきと初めて会うと決まった時に、頭にある思い出が浮かんだという。
それは薬師丸が高校生だった頃。
勉強を教えてもらっていた家庭教師が中島みゆきのファンで、薬師丸の家にあった中島みゆきのCDを借りていったことがあった。
みゆき「先生孝行の仕事をしてしまったって感じ?(笑)」
曲の依頼を受けて中島みゆきが思ったこと
中島みゆきが薬師丸ひろ子の方から曲の依頼を受けたのはライブアルバム『歌暦』の制作を終えたくらいのときだった。
仕事がひと段落して間が空いていたところへ「薬師丸ひろ子の曲を書いてみないか?」と話が来たときは、驚いたという。
中島みゆきの曲のイメージが薬師丸に果たして合うものだろうか?
みゆき「前からちょっと思ってたことがあってね、薬師丸さんの声ってすごく透き通ってて、スーッと前に出てく素直な声なんだけど、ぜったい毒あると私は思ってたのね(笑)」
薬師丸ひろ子の歌声を聴いてみた中島みゆきは、改めてそれを再確認した。
その「毒」に惚れ込んだ中島みゆきは、イケると確信したのだ。
『空港日誌』の裏話
ここで中島みゆきが『空港日誌』『未完成』の作成秘話を語ってくれた。
中島みゆきは薬師丸ひろ子のアルバム『星紀行』のコンセプトからイメージを膨らませてこの曲をつくったという。
みゆき「薬師丸さんの声はどうしても夢のような声になるんじゃないかと思うとこがあったのね。
それをすごく日常的なとこへ持ってって毒を表現したいなと思ったときにね、「広島空港」ってコトバが出たんですね」
中島みゆきにとって広島空港はツアーなどで利用する馴染みの場所だった。
余談だが、中島みゆきはこの空港で大恥かいたらしい。
ファンに見送られる中、保安検査場をくぐった中島みゆきは、その先にあるガラスに気づかず顔面をぶつけたのだ。

『未完成』の裏話
『未完成』については写真で見た薬師丸ひろ子のイメージで書いた曲だという。
一方で薬師丸ひろ子の方は、他のアーティストにいろんな曲を書いている中島みゆきが、自分のためにいったいどんな曲がくるのか、皆目見当がつかないまま待っていた。
できあがった曲は女心を色濃く映したモノ。
「あんまり女っぽくすると本人も辛くないですかねぇ?」という声も聞いた中島みゆきだったが、
「大丈夫ですよ、女なんですもん」
と撥ねのけた。
完成のテープを聴いた中島みゆきは、イメージ通りだったと思う反面、息継ぎがほとんどない曲を歌いあげてしまった薬師丸の肺活量は意外だったという。
みゆき「私の歌う歌ってブレスの箇所が少ないんですね。
どうしても言葉数が多くなっちゃってブレスの箇所が足りないって毎回言われるんですよね」
今回の『未完成』に至ってはそういう曲ではないだろうと思っていたが、やはりブレスが困難な曲に仕上がってしまった。
薬師丸「この曲で訓練したせいか分からないんですけど、昨日カラオケに行って、『時代』を思いきり歌ったんですけど、こんなに上手に歌えるとは思わなかったです(笑)」
みゆき「アハハハ!」
ここで、例の中島みゆきに書いてもらった曲から1曲、『空港日誌』。
『時代』の裏話
薬師丸ひろ子が初めて知った中島みゆきの曲は、『時代』だった。
薬師丸「何年くらい前の曲なんですか?」
みゆき「11年……かな?」
(『時代』は1975年にセカンドシングルとしてリリースされた)
薬師丸「じゃ私が12くらい……小学校くらいの曲ですね」
みゆき「いやァ~アハハハ」
薬師丸「ギターを持ってらした姿とジーンズを穿いてらした姿がすごく印象的で、なんでかよく分かんないんですけど、すごくよく口ずさんで歌ってて気持ちが良かったんです。
この歌を作られたのは高校生のときなんですか?」
みゆき「これは書いたときは、大学生だったでしょうかね」
薬師丸「なにかのきっかけがあって?」
みゆき「そういうのはなかったです。
ちょっとずつフレーズ変えていって、繋いだら、ああこんな風になっちゃったみたいな」
『時代』はヤマハが主催のコンテスト(ヤマハポピュラーソングコンテスト)に応募してグランプリを獲った曲であるが、この曲を応募した経緯についても語る。
みゆき「その頃、暗い歌も持ってたんですけどね、その頃のブームとして思ったのは、あまり根の暗い歌は賞はもらえないんだと。
派手な曲で賞はもらってレコード出させてくれるってんなら暗いのまとめて出そうと(笑)。
やっぱコンテストで『うらみ・ます』は出せないですよ(笑)」
『時代』はちょっと計算も入った選曲だったのだ。


中島みゆきはいつから曲を書いていたのか?
薬師丸「中学生とかそのくらいから曲は書いてたんですか?」
みゆき「そうですね。
書いてたのは中学生くらいからでしょうかね」
薬師丸「その頃の曲って今はどうされてるんですか?」
みゆき「ないしょで持ってます(笑)
忘れたころに出そうかしら(笑)
でもそうすると、30過ぎてセーラー服着ると不気味なのと一緒ですよね(笑)」
だが薬師丸ひろ子は、誰しも通ってきた中学生時代を中島みゆきはどういう視点で見てきたのか興味津々。
薬師丸「発表なさるおつもりはあまりないですか?」
みゆき「機会があったら小出しにしてみようかしら」
つづいてお送りする曲は中島みゆき『時代』1975年シングルバージョン。
『時代』(1975年シングルバージョン)(レコチョク試聴あり)
中島みゆきの思ういい仕事
つづいては中島みゆきから薬師丸ひろ子へ質問。
みゆき「私なんかから見てると、私は自分のこう言いたいこう言いたいってこといつも言い続けてるけど、ひろ子さんみたいな立場になると、自分が言いたい言いたいってこと以外にいろんな人間の心理を把握していかなきゃなんないでしょ?
あれはなかなか作業としてはすごい大変ですよね?」
この2年後に中島みゆきは夜会をスタートさせる。
きっと芝居をする人間の心構えというものにこの頃興味があったのだろう。
薬師丸にとって、特に泣く芝居のときには苦労が多いという。
薬師丸「私、涙がなかなか出ないんですね。
それは技術として涙を出さなきゃならないってこともあるわけなんですよね。
私、ふだんはけっこう家で泣いたりするんですけど、でもなんで(芝居のときは)涙が出てこないんだろうって思いに返っちゃうんですよね。
そうすると、芝居どころじゃなくて、自分をどんどん痛めつけるっていうか……」
芝居としての涙と生理現象としての涙を混同してしまい、辛い思いをしてしまったことがあったようだ。
みゆき「手段として泣けるようになったら楽だけど、そういうことばっかりやってると腐りますよね」
薬師丸「3つ。慣れない、飽きない、冷めない。これがある限りホントに素人みたいなもんだから、やってられるかなって気がして」
今の薬師丸ならそう前向きに思えるが、かつては泣けない笑えない自分がこの先お芝居でやっていくことはできないだろうと自信をなくしていたという。
みゆき「自分だけを痛めつけるんじゃなくって、映画も、歌もレコード作ったりもそうですけど、コンビネーションによって生まれてくることがすごい多いと思うんですよね。
自分だけ痛めると、深くはなるけど、辛いですからね。
コンビネーションって大きいですよね」
歌手という身であってもつくり笑顔をせざるを得ない状況があると中島みゆきは言う。
みゆき「私も自分のことさらけ出すのはそう得意な方じゃないから、つい隠しがちになっちゃうんだけど。
外で仕事して、ウチ帰ったときに、その仕事場に自分はいなかったと思う日は寂しいよね。
あれはぜんぶつくり笑顔だったのよと思うような仕事をしてきた日は、ウチに帰った時は寂しいね。
もし今ウチで化粧落とした顔と外でしてきた顔は違うかもしれないけれども、それでも、私がそこにいたと思える仕事をした日は、いいお風呂に入れますよね(笑)」
ここで今度は、中島みゆきからリクエストを受けた薬師丸ひろ子の曲をかけることに。
曲は『元気を出して』。
中島みゆきがコンサート前に思うこと
7月からツアーが始まる薬師丸ひろ子だが、同時期に中島みゆきの方でもツアー「SUPPIN Vol.1」がスタートすることになっていた。
薬師丸「楽しみですか?」
みゆき「今、歌詞覚えるので七転八倒(笑)
ひろ子ちゃんのほうはどうですか?(笑)」
薬師丸「私は初めてなんでね、意気込みからどういう心構えで臨んだらいいのか、みっちり毎日絞られて(笑)」
みゆき「いいな~教えてくれる人がいて(笑)」
そんな薬師丸、今回のコンサートに臨むにあたって中島みゆきに秘訣を仰ぐ。
みゆき「デビューしてからの年数ってあんま変わんないんですよね?」
そう、実は2人のデビューは、中島みゆきは1975年、薬師丸ひろ子は1978年とあんまり変わらないのである。
ジャンルが多少なり違うってだけなので、
みゆき「だから、アドバイスってほどのこともないんですけどね」
そこで薬師丸は質問を変える。
薬師丸「どうしていいか分からないくらいの緊張にかられるとき、どうやったら自分を抑えたらいいんでしょう?」
みゆき「そうですね。
いちばんいいのは抑えないってことですねアハハハ!」
実は中島みゆき年々緊張は度合いを増していってるようなのだ。
みゆき「コンサート2カ月前から見る夢いっしょなのね」
中島みゆきがコンサート前に見る夢とは、1ベル(開演前に鳴るブザー)が鳴ってステージの所定の位置についたはいいが、そこから歌詞を丸っきり思い出せないという悪夢。
うなされて起きるということが多々あるらしい。
だが実際も、コンサートで一番怖いのがこの1ベルが鳴る瞬間だと中島みゆきは言う。
歌詞を忘れたらどうしよう?
歌詞を間違えたらどうしよう?
やらなけりゃよかった、と弱気になるのだが、それでもステージに立つ理由があった。
みゆき「自分の場所ってのが、ステージの袖から見るとね、見えるんですよ。
マイクスタンドがあって、そこに自分のギターなんかが置いてあって。
あとで歌詞間違えたら何言われるか分かんないっていうプレッシャーはごっそり周りを渦巻いてるけども、あのピンのあたってる、あの場所しか今私にはないんだと思ったら、そこ行くしかないですよね」
薬師丸「なるほどねぇ。
ステージに立っていざこれからというときに、足がすくむって感覚は今までにありましたか?」
みゆき「もちろんありますね。
自分の場所だと思って立っても、物理的には毎日ステージの床なんかが違ったりするでしょ?
そうすると、足の裏から伝わってくるものがすでに、自分に呼びかけてくるものがありますよね。
ここはステージなんだぞ、っていう感じのね。
だから、マインドとして自分の場所を掴もう掴もうとしてるうちに2時間が終わったっていうそういうことありますけど。
でも、今までやってきて思うのは、そういう時に引っぱってってくれる力が客席とかメンバーとかスタッフとかに生まれてくることがあるんですね。
歌詞忘れて真っ青になりそうなときに、がんばんなさいっていう意識にフッと引っぱってくれるときがあるんですよね」
中島みゆきはコンサートでは強く客席との連帯感を感じているようだ。
こちらが歌詞を間違えてうろたえているときには、それ以上に客席がうろたえている。
そんな光景をこれまでにたくさん目の当たりにしたという。
まだライブ未経験の薬師丸ひろ子にとってこの話は勇気づけてくれるものだった。
ラストの曲は、中島みゆきが薬師丸ひろ子に作った曲で『未完成』。
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