夜会

中島みゆき『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』と「雨月物語」の関係|登場人物は幽霊?

雨月

1993年11月14日~12月11日まで渋谷のBunkamura・シアターコクーンで上演された
『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』
をみていこう。

『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』の特徴

上演時期

1993年11月14日~12月11日まで渋谷のBunkamura・シアターコクーンで上演された。
なお、12月4日公演で、通算100回公演を記録。

4人の女性の群像劇

本作は「待つ」をテーマに4人の女性が登場し、それぞれの「待つ」を描いている。

春(梅雨)、冬、秋、夏という風にストーリーがまるで季節を遡って繋がっているところがまた意味深である。

舞台はカフェテラス。

登場するのは中島みゆきとウェイターの男のみ。

このウェイターについて、1994年に角川書店から出版された『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』のシナリオ本の注釈には、

「彼もまた「待つ人」という名を持つ第三者である」

と記されている。

つまり、「wait(待つ)」+「er(人)」で「waiter(待つ人)」なのだという。

「雨月物語」がモチーフ

サブタイトルにある「花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に」は、「古今集」に収められている小野小町の歌。

この歌について世間は様々な小野小町のカタチを想像膨らませ伝説が飛び交っている。

1994年に角川書店から出版された『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』のシナリオ本の注釈によると、世間の憶測から発した小野小町にまつわる伝説を聞き流しておけばよいとした上で、

「その伝説の中にいない本人は、どこをさまようのか。
 「伝説の中にはいない本人」を探す旅の歌枕として、舞台は「浅茅が宿」(「雨月物語」)の姿を借りて始まる」

と記されている。

「浅茅が宿」(「雨月物語」)とはどんな物語なのか?

「浅茅が宿」とはどんな物語なのだろうか?

話の舞台は室町時代中期の享徳4年(1455年)。

下総(今の千葉県)に勝四郎という男と宮木という妻がいっしょに暮らしていた。

勝四郎はろくに働かない男で、のらりくらりと日々過ごしているうちにやがて家は貧しくなっていった。

ようやく極貧から抜け出したいと思うようになった勝四郎は、京にのぼって商売を始めようとした。

必死にとめようとする宮木には耳を貸さず、勝四郎は、秋には帰るといって宮木を残し京へと発った。

京へ着き商売を始めた勝四郎だったが、思いのほか上手くいった。

いっぽう、その頃、関東のほうでは戦乱が起き、宮木のいるとこも戦火に巻き込まれていく。

だが、宮木は「秋には帰る」という勝四郎のコトバを信じて、家を守ろうと逃げることなくその場に踏みとどまろうとした。

戦乱の話を人づてに聞いた勝四郎は、宮木の無事が気がかりで下総へ戻るコトを決意。

だが、勝四郎は、帰りの途中に熱病で途に倒れ、助けられた村人の厚意に甘えて7年という歳月をそこで過ごしてしまう。

だが、そのうちに、自分が妻を裏切っていることに気づいて、ようやく久方ぶりに下総へ戻ってきた。

かつての故郷は見る影もなく、戦によって破壊されていた。

半ば諦めの気持ちで勝四郎は変わり果てた我が家へと辿り着いたのだが、なんと、そこにはやつれた宮木の姿があった。

宮木は勝四郎の帰りを信じてずっと待ち続けてくれていたのだ。

2人は涙ながらに再会を喜び、一夜を過ごした。

が、朝がくると、隣に宮木の姿はなかった。

あたりを探すと墓があった。

そこには宮木の文字で今わの際に書かれた和歌が貼ってあった。

宮木はもうこの世にはいない。

そう悟った勝四郎は、その場にくずおれ号泣した。

「浅茅が宿」(「雨月物語」)が随所に散りばめられている

この「浅茅が宿」(「雨月物語」)の物語の中にも「待つ女」が描かれている。

『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』の大まかなストーリーは、この物語がモチーフになっているということは容易に想像つく。

設定においても、例えば、戦地からの手紙を読むシーンがあるが、ここに書かれている「突然のクーデター」というのは「浅茅が宿」(「雨月物語」)にも登場する享徳4年(1455年)の争乱を指す。

1994年に角川書店から出版された『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』のシナリオ本を読むと、さらに細かなところまでが「浅茅が宿」(「雨月物語」)を下敷きにしているコトが分かる。

ラブレターを寄こした男が、待ち合わせに選んだ場所「見晴らしの良い吹き抜け」は、「浅茅が宿」(「雨月物語」)の中の「面にひやひやと物のこぼるるを、『雨や漏ぬるか』と見れば、屋根は風にまくられてあれば有明月のしらみて残りたるもみゆ」という文をなぞったモノだ。

また、劇中で歌われる曲についても、「浅茅が宿」(「雨月物語」)に関連づけられている。

例えば、『遍路』であるが、曲中に出てくる「遠回り道」「行き止まり道」という歌詞は、「浅茅が宿」(「雨月物語」)で京に出稼ぎに行ったっきり帰ってこない勝四郎の様と重ね、「私に昔は忘れろと言った人」というのも話の脈絡から考えて勝四郎のコトであるが、「よよと泣を、『夜こそ短きに』といひなぐさめてともに臥ぬ」という文をその根拠にしている。

登場する4人の女性は幽霊?

1994年に角川書店から出版された『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』のシナリオ本には舞台では知ることのできないコトが書かれている。

その1つに、登場する4人の待つ女の正体がシナリオには描かれている。

興味深いのは、ト書きで彼女たちについてこう描写している。

「この女の足音を、誰も聞いたおぼえがない」

「waiterは気づいていないが、実はこの女は、この世には生きていない者なのである」

「「待つ」という思いだけを姿に変えて現れるのが、「待つ人」すなわちwaiterの目には見えるのである」

これもまた、「浅茅が宿」(「雨月物語」)になぞらえたものであり、彼女たちは夫を待ちながら死んでいった宮木の化身なのである。

注釈にも、

「これまで四人の女たちに姿をかえた宮木の亡霊には足音がなかった」

と書かれている。

『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』の見どころ

中島みゆきの演技力

この舞台には4人の女性が登場し、オムニバス形式でそれぞれの「待つ」が描かれる。

この4人の女性を中島みゆき1人が演じているワケだが、ハッキリと人物のカラーを感じられる。

なかでもハッピ姿のチャキチャキの江戸っ子?の女性は、オールナイトニッポンでの中島みゆきを思わせるような語り口。

ユーモアの中に寂しさが垣間見えてくる演技力にも見入ってしまうことだろう。

『孤独の肖像 1st.』

『孤独の肖像 1st.』(レコチョク試聴あり)

特に印象的なのは、妊婦の中島みゆきが、戦地からの夫の手紙を胸に抱きしめながら歌う『孤独の肖像 1st.』

夜空にあがる花火の音がやがて爆撃や銃撃と変わっていき、戦地から未だに帰ってこない夫に思いを馳せながら歌うくだりは、歌手の平原綾香も印象に残った場面として挙げている。

『夜曲』

『夜曲』(レコチョク試聴あり)

鉄骨を昇っていきながら『夜曲』を歌うラストもこれも名シーン。

シナリオには、この様子がこのように書かれている。

「愛しい者に呼びかけ呼びかけ、
 自ら『逢いに行く』ことを決意した女が、嬉しそうに非常階段を這い登っていく。」

ドキュメント

『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』の舞台裏(メイキング)が1994年NHKで放送された。

後に辻仁成のナレーションでビデオ化された。

『夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に』から生まれた曲

『人待ち歌』

『人待ち歌』(レコチョク試聴あり)

この夜会のために書き下ろされた曲であるが、「浅茅が宿」(「雨月物語」)の要素が色濃く反映されている舞台とあって、この曲の中に宮木勝四郎の存在が感じられる1曲。

この曲は、1995年10月20日に発売された23作目のアルバム『10 WINGS』に収録されている。

ひいらぎ
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