テレビ

中島みゆきの「夜会」の歴史|2015年放送「SONGS」より

演劇

中島みゆきのライフワークである言葉の実験劇場「夜会」
2015年11月17日放送の「SONGS」(NHK)では、「夜会1990」から「夜会VOL.18 橋の下のアルカディア」までの約25年間を振り返っている。
中島みゆきの言葉も交えながら、「夜会」の歴史を振り返ってみよう、

この記事は、

  • 「夜会」の歴史
  • 中島みゆきの「夜会」の思い出

について書いてます!

夢おじ子
夢おじ子
中島みゆきの曲を全て聴いてきたファン歴30年以上の夢おじ子が解説!

「夜会」とは?

中島みゆきは、2014年12月31日、「第65回NHK紅白歌合戦」(NHK)に出演し、『麦の唄』を歌った。

麦に翼はなくても 歌に翼があるのなら
伝えておくれ故郷へ ここで生きてゆくと
(『麦の唄』より)

⇒『麦の唄』(レコチョク試聴あり)

⇒『麦の唄』の記事はコチラ

放送された同じ頃、中島みゆきは「夜会VOL.18 橋の下のアルカディア」の舞台にも立っていた。
中島みゆきのライフワークともいえる言葉の実験劇場「夜会」は、コンサートでも演劇でもない独特の舞台表現だ。
中島みゆき1人で脚本・作詞・作曲・歌・主演を務めている。

「夜会1990」

「夜会」は1989年、渋谷のBunkamura・シアターコクーンでスタートした。
デビューから14年を経て中島みゆきが選んだ新たなステージだ。
初めての「夜会」は成功を収め、翌年には、第2弾「夜会1990」が上演された。
デッキチェアに腰かけ歌う曲は、『二隻の舟』だ。

難しいこと望んじゃいない
有り得ないこと望んじゃいない
時よ 最後に残してくれるなら
寂しさの分だけ 愚かさをください」
(『二隻の舟』より)

⇒『二隻の舟』(レコチョク試聴あり)

⇒『二隻の舟』の記事はコチラ

この「夜会」のテーマ曲は、毎回、劇中で必ず歌われている。

「夜会」を始めようと思ったきっかけは何だったのだろう?
中島みゆきは、レコードやCDをリリースした後、曲について、もっとこうすればよかったと後悔することが多かった。
そこで、コンサートではアレンジや歌詞を変え、納得のいく形で披露してみるのだが、客の反応はいまいちなのである。

中島みゆきは、以下のように語る。

「お客さんが、あの感じでくると期待していたら全然違ったアレンジできちゃったとか、あろうことか歌詞まで違うみたいなことになりますと、会場大混乱になりましてですね、シラーっとした空気が漂ったりとか」

この観客との間に生じる温度差をどう埋めていこうか悩んでいた時、中島みゆきはある思いに至る。

「もしかして、歌を聴いていただく場面や背景、何らかのストーリーに乗せて変えてみたら、歌の表現が多少違っても、すんなりと受け止めてもらえるんじゃないかなって風に思い始めてたのね」

「夜会VOL.3 KAN(邯鄲)TAN」

「夜会」は3回目から、サブタイトルがついてテーマをはっきりと打ち出すようになった。

1991年公演の「夜会VOL.3 KAN(邯鄲)TAN」は、中国の故事「邯鄲の夢」がモチーフになっている。
1人の女が、タクシーの車内で眠っているほんの短い間に、少女から老婆になるまでの孤独な一生を夢に見る。
この「夜会」で中島みゆきは老婆に扮して『傾斜』を歌っている。

忘れっぽいのはステキなことです そうじゃないですか
悲しい記憶の数ばかり
飽和の量より増えたなら
忘れるよりほかないじゃありませんか
(『傾斜』より)

⇒『傾斜』(レコチョク試聴あり)

⇒『傾斜』の記事はコチラ

この「夜会」では、置き去りにされた女の立場から『わかれうた』も歌われている。

途に倒れて だれかの名を
呼び続けたことが ありますか
(『わかれうた』より)

⇒『わかれうた』(レコチョク試聴あり)

⇒『わかれうた』の記事はコチラ

「夜会VOL.4 金環蝕」

1992年公演の「夜会VOL.4 金環蝕」は、古典と天文学がクロスした世界を表現している。

岩陰に籠ってしまった天照大神になんとか出てきてもらおうと、アメノウズメノミコトが裸で舞を踊る。
この古事記に描かれているシーンを、中島みゆきも「つけ乳」を装着して演じている。

エンディングでは、金環蝕を望遠鏡で観察する学者が、アメノウズメノミコトに姿を変え、『泣かないでアマテラス』を歌う。
鈴をつけた足で地面を踏み鳴らし、全身で踊りながら歌うシーンは、大きな感動を呼んだ。

君をただ笑わせて
負けるなと願うだけ
泣かないで 泣かないで 泣いて終わらないで」
(『泣かないでアマテラス』より)

⇒『泣かないでアマテラス』(レコチョク試聴あり)

⇒『泣かないでアマテラス』の記事はコチラ

「夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に」

1993年公演の「夜会VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に」は、「雨月物語」の「浅茅が宿」がモチーフだ。

季節ごとに、4人の「待つ女」を中島みゆき1人で演じ分けている。
劇中、女は、カフェテラスのテーブルに飾った柊の実を「来る、来ない」と花占いのように1粒ずつもぎっていく。
やがて、それはメロディを紡いで歌へと変わる。

来る、来ない、来る、来ない、
来る、来ない、来る、来ない
(『人待ち歌』より)

⇒『人待ち歌』(レコチョク試聴あり)

⇒『人待ち歌』の記事はコチラ

この曲もまた、「夜会」から生まれた曲だ。

この「夜会」のリハーサル現場へカメラが潜り込んでいる。
この模様は、1994年1月12日放送の「中島みゆき3DAYS~もっとみゆきと深い仲 音楽ドキュメント90デイズ」(NHK)の中で流れている。

「おはようさんでぇす!」と大きなバッグを持ってスタジオ入りする中島みゆき。
リハーサル初日のこの日、未完の台本とにらめっこしながら筆を書き入れている中島みゆきの姿をカメラは映す。
「夜会」の台本がどのように作られるのか中島みゆきが語っている。

「うちの台本はね、いわゆるお芝居の人達の台本みたいにきっちり形になってないのね。どっちかというと、歌をずっと繋げて書いてあるのが台本なのね。その脇にト書きがちょこちょこと」

台本ありきの歌ではなく、歌を紡ぐことによって台本の形ができあがっていくというのが「夜会」のスタイルなのだ。

この「夜会」で、中島みゆきは妊婦役にも臨んだ。
カフェで、戦地に行った男からの手紙を読みながら歌う『孤独の肖像1st.』は、バックに銃声のSEが流れる。
劇中の文脈に置いた曲は、また違った味わいが生まれてくるのだ。

いつも僕が側にいる、と
夢でいいから囁いて
それで少しだけ眠れる
本当の淋しさ忘れて
(『孤独の肖像1st.』より)

⇒『孤独の肖像1st.』(レコチョク試聴あり)

⇒『孤独の肖像1st.』の記事はコチラ

「夜会VOL.6 シャングリラ」

1994年公演の「夜会VOL.6 シャングリラ」は中国のマカオが舞台だ。
それまでの「夜会」は、古典をモチーフにストーリーを創作してきたが、ここからは完全オリジナルで臨んでいる。

母親を騙した女への復讐を果たすために、主人公のメイは、メイドになりすましてその女が住むシャングリラへと潜入していく。

「夜会VOL.14 24時着 00時発」

宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにした2006年公演の「夜会VOL.14 24時着 00時発」では、初の大阪公演が行われた。
巨大な階段のセットを縦横無尽に使い、ダイナミックなステージを展開。

「夜会VOL.15 〜夜物語〜元祖・今晩屋」「夜会VOL.16 〜夜物語〜本家・今晩屋」

2008年公演の「夜会VOL.15 〜夜物語〜元祖・今晩屋」と2009年公演の「夜会VOL.16 〜夜物語〜本家・今晩屋」
森鴎外の「安寿と厨子王」がモチーフのこの舞台は、炎上する寺、巨大な舟、本物の水を舞台上に流したりと、迫力満点の仕掛けが施された。
流れる水の上で『天鏡』を歌うシーンは、浮世離れした世界観を放っている。

その鏡は 人の手には触れることの叶わぬもの
その鏡は 空の彼方 遙か彼方
涙を湛えた 瞳だ
(『天鏡』より)

⇒『天鏡』(レコチョク試聴あり)

回を重ねるごとに大掛かりなセットになっていくことについて、周りからは「スペクタクル」と呼ばれるようになった。
中島みゆきは、以下のように語っている。

「せっかくだったらこの空間を何とかめいっぱい使いたいねって言っていると、梅干し弁当だったのが幕の内弁当みたいになってきて、そのうち三段重みたいになってくるわけでございまして」

「夜会VOL.18 橋の下のアルカディア」

2014年公演の「夜会VOL.18 橋の下のアルカディア」では、うらぶれた橋の下の人々にスポットが当てられた。
占い師の人見(中島みゆき)とバー代理ママの天音(中村中)が、橋の下の隠された歴史を紐解いていく。
『問題集』はこの「夜会」から生まれた曲だ。

2人のカバンの中には 違う問題集がある
代りに解いてあげたなら 代りに解いてくれるかな
取り替えてみたい気がする
(『問題集』より)

⇒『問題集』(レコチョク試聴あり)

この舞台のテーマについて、中島みゆきは以下のように語っている。

「今回のテーマはね、「捨てる」ということだったのね。「捨てる」とか「捨てられる」とか。よくね、言うことを聞かない子供なんかに、「お前はね、橋の下で拾ったんだから」って言いません? それを思い出して、どんどん話が広がっていったわけです」

ある日、ガードマン(石田匠)が地下街の閉鎖を2人に告げる。
ここから物語は江戸時代へと遡り、この橋の下の昔が描かれていく。
人見の前世はこの時代を生きていた村の女で、彼女は橋の人柱として命を捧げた。

夫婦で可愛がっていた猫を放ち、女は永遠の別れを告げる。
実は、この夫と猫は、それぞれガードマンと天音の前世だったのだ。

中島みゆきは、「夜会」の中で、輪廻転生を様々な形で表現しているが、これもその1つ。
『ペルシャ』は、人見と猫の関係を歌っている。

雨の夜は眠たい 無愛想のうわぬり
うしろめたさを誘う 無口な時間
思い出しかけてる 誰かが呼んでいる
(『ペルシャ』より)

⇒『ペルシャ』(レコチョク試聴あり)

物語は現世へと戻り、いよいよ集中豪雨により地下街が水没の危機に陥っていく。
そんな時、天音が見つけた1通の手紙が2人を救うことに。

その手紙は、ガードマンの祖父によって書かれたものだった。
戦時中、特攻隊を脱走して、地下街に隠れ続けていたことがそこには綴られていた。
手紙には、予言めいたことが書かれている。

未曽有の嵐が来る時は この地は川へと還るだろう
二度と生け贄にならぬよう 緑の手紙を開けなさい
(『呑んだくれのラヴレター』より)

ラストは戦闘機の主翼の上に中島みゆきが立ち、『India Goose』を歌う。
渡り鳥を歌った曲だが、物語の文脈の中だと違う意味に聞こえてくる。

飛びたて 飛びたて 戻る場所はもうない
飛びたて 飛びたて 夜の中へ
(『India Goose』より)

⇒『India Goose』(レコチョク試聴あり)

中島みゆきのコメント

番組の最後に、中島みゆきが以下の声のコメントを残している。

私はね、今流行りの物を作っていくってことよりも、時の流れがね、落っことしていった物をいちばん後ろから拾いながらトボトボと行くっていうのが私には合ってるかなと思ってるんです。
でも私は、それできっと嬉しがっているんだろうなと思います。
嬉しがってる私に、またどこかで会ってくださいね。

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