1996年に上演された『夜会VOL.8 問う女』
言葉を身を守る道具として使ってきたアナウンサーと言葉を知らない外国人娼婦の交流を描いた作品。
「言葉」と正面から向き合った本気度が窺える傑作だ。
特徴から、見どころ、また、歌われた曲が収録されたアルバムについて、色々みていこう。
この記事は、
- 『夜会VOL.8 問う女』の特徴
- 『夜会VOL.8 問う女』の見どころ&みんなの感想
- 『夜会VOL.8 問う女』で歌われた曲が収録されたアルバム紹介
について書いてます!
中島みゆき『夜会VOL.8 問う女』
1996年上演。言葉を使い捨てる生き方に虚しさを覚えるアナウンサーの女。
日本語が話せない外国人娼婦との出会いをきっかけに、言葉と向き合い直す姿を描いている。
『夜会VOL.8 問う女』の特徴
言葉と正面から向き合った作品
中島みゆき扮する綾瀬まりあというアナウンサーが本作の主人公だ。
ある1人の外国人娼婦との出会いを通して、自分の言葉を取り戻していくストーリー。
中島みゆき曰く、「言葉の役割」というテーマを取り上げ、言葉から生じる責任を自戒を込めて描いた作品とのこと。
中島みゆき自身を重ねた設定?
主人公の綾瀬まりあが、ラジオスタジオのブースからリスナーへ語りかけるシーンがある。
中島みゆきもまた、かつてラジオDJを務めていた。
本作には、中島みゆきが接してきたリアルが投影されているように感じられる。
もう1人の登場人物である外国人娼婦は、中島みゆきがかつて住んでいたマンションで交流を持った外国人娼婦が下敷きになっているとも取れる。
中島みゆきが、かつて住んでいたマンションで、外国人娼婦と交流している。
この娼婦は、後に遺体で発見された。
1980年、この出来事をモチーフにして、『エレーン』という曲が発表された。
「2万6千円」の娼婦役は富良野塾生徒
「にぃまんろくせんえん」と片言の言葉で客引きする外国人娼婦。
東南アジア系の設定であるが、実は、森上千絵という日本人俳優が演じている。
森上は、倉本聰が主催する富良野塾に在籍していた生徒で、ドラマ「Dr.コトー診療所」(フジテレビ系)や倉本聰脚本のドラマ「優しい時間」(フジテレビ系)など、出演歴がある。
ユニークな舞台
中央に透明なブース、それを囲むように田んぼのあぜ道のようなユニークな舞台セットが組まれている。
ブースは、ラジオ局のスタジオになったり、ロープウェーのゴンドラとなったりと、劇中で重要な役割を果たす。
田んぼのあぜ道のようなセットも、その形状を活かして夜のネオン街になったりと、いろんな見せ方をしている。
非常に入り組んだセットであるために、演者からすれば行動が制約されてしまう。
「中島みゆきは、限られた空間の中でちょうどよい場所を選ぶ嗅覚が優れている」と、舞台美術を担当した堀尾幸男は語る。
中島みゆき書き下ろしの小説
「夜会VOL.8 問う女」は小説化し、1997年11月1日に幻冬舎より出版された。
現在、電子書籍でも販売されている。
セットリスト
『夜会VOL.8 問う女』では、以下の曲が歌われている。
『誰だってナイフになれる』『エコー』『SMILE, SMILE』『台風情報』『RAIN』『JBCのテーマ』『公然の秘密』『女という商売』『二隻の舟』『あなたの言葉がわからない』『血の音が聞こえる』『未明に』『異国の女』『PAIN』
『夜会VOL.8 問う女』の見どころ
『誰だってナイフになれる』
冒頭、この曲が流れ、主人公の綾瀬まりあの抱える悩みがモノローグで語られていく。
この物語の問題提起のような位置づけの曲で、言葉は時としてナイフになる危うさを秘めていると歌っている。
誰だってナイフになれる
簡単にナイフになれる
人が幸せ見せるとき
人が背中を見せるとき
(『誰だってナイフになれる』より)
中島みゆきは幼少期に、産婦人科医の父親からこんなことを言われていた。
「刀で切った傷は薬をつければ治せるけれど、言葉で切った傷は薬では治せないんだよ」
『SMILE, SMILE』
主人公の綾瀬まりあがショッピングモールの催事場で司会進行する場面で歌われる曲。
かわいいワニの着ぐるみ姿の中島みゆきが、子どもに風船を配りながらコミカルに歌う印象的なシーンだ。
後に、「夜会」のハイライトシーンを再現したステージ「夜会工場」の中でも取り上げられている。
ねぇ、SMILE, SMILE 試してみて僕に笑ってみせて
SMILE, SMILE 笑ってみて ほら僕も笑いだす
(『SMILE, SMILE』より)
『あなたの言葉がわからない』
主人公の綾瀬まりあが、ゴンドラからの風景を、言語の通じない外国人娼婦に伝えようとするシーンで歌われた。
「伝わらない言葉」をテーマに、言葉の本質をついたような歌詞である。
あなたの言葉がなんにもわからない
あなたに心がないのかと間違える
あなたの言葉がなんにもわからない
あなたがこの世にいないかと間違える
(『あなたの言葉がわからない』より)
『PAIN』
本作のクライマックスを飾る傑作。
主人公の綾瀬まりあが、娼婦の出会いを通して、ようやく自分の言葉を手に入れたシーンで歌われた。
この曲は、物語の中盤で、『RAIN』というタイトルで一部歌詞を変えて歌われている。
これら2つの曲を聴き比べると、綾瀬まりあの心の変化が読み取れる。
抗(あらが)う水には 行く手は遠い
崩れる水には 岸は遠い
どんなに傷つき汚れても 人はまだ傷つく
痛まない人など あるだろうか
(『PAIN』より)
『夜会VOL.8 問う女』のみんなの感想
「問う女」について書くとまとめ切れないし、中島みゆきへの賛美と愛を一方的に語る以外のものにはならないのですが、最後の場面、みゆきさまこと綾瀬まりあが、にまんろくせんえんから貰ったプレゼントを持って、すっと背筋を伸ばす瞬間は、今まで見た中で一番美しいみゆきさまだった。
— おこた (@kotatsu1977) June 24, 2021
「問う女」最後の退場シーン、すぐ真横を通り過ぎて行くみゆきさんに超ドキドキ💓興奮したの思い出すわ。#中島みゆき
— らいくあさーもん (@neotorupon) June 17, 2018
仕事で、日本にいる外国人妻についての話をいろいろ聞く機会があるのですが、中島みゆきさんが「問う女」の中で歌っていた「あなたの言葉がなんにもわからない あなたに心がないのかと間違える」という歌詞がものすごくリアルに響く感じがいたします。
— Aiko0320 (@aiko0320) June 21, 2012
『夜会VOL.8 問う女』の曲が収録されたアルバム
『日-WINGS』
1999年リリースのオリジナルアルバム。
「夜会VOL.7 2/2」~「夜会VOL.10 海嘯」からセレクトした楽曲をセルフリメイク。
「夜会VOL.8 問う女」からは、
- 『羊の言葉』
- 『異国の女』
- 『あなたの言葉がわからない』
を収録。
【収録曲】
『竹の歌』『NEVER CRY OVER SPILT MILK』『いつか夢の中へ』『羊の言葉』『異国の女』『あなたの言葉がわからない』『難破船』『知人・友人・愛人・家人』『Good Morning, Ms. Castaway』『明日なき我等』
『月-WINGS』
1999年リリースのオリジナルアルバム。
「夜会VOL.7 2/2」~「夜会VOL.10 海嘯」からセレクトした楽曲をセルフリメイク。
「夜会VOL.8 問う女」からは、
- 『女という商売』
- 『SMILE, SMILE』
- 『PAIN』
を収録。
【収録曲】
『1人で生まれて来たのだから』『紅い河』『LAST SCENE』『女という商売』『SMILE,SMILE』『PAIN』『白菊』『時効』『愛から遠く離れて』
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