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中島みゆきと片岡義男と安田南の対談|1978年放送「FM25時 きまぐれ飛行船」より

1978年5月8日放送の「FM25時 きまぐれ飛行船」(FM東京)に中島みゆきがゲスト出演している。

リリースしたばかりのアルバム『愛していると云ってくれ』を軸に、レコーディング秘話や、自身の恋愛観、音楽に対する考えなど語っている。
1970年代の中島みゆきは、何を考えていたのだろうか?

司会の小説家・片岡義男とジャズシンガー・安田南が、中島みゆきの生態へ迫る。

3人の対談をみていこう。
(※部分的に編集しています)

この記事は、

  • 中島みゆきの曲が失恋ばかりな理由
  • 『「元気ですか」』『わかれうた』の秘話
  • 中島みゆきがよく行く店

について書いてます!

夢おじ子
夢おじ子
中島みゆきの曲を全て聴いてきたファン歴30年以上の夢おじ子が解説!

『「元気ですか」』の秘話

「元気ですか」と
電話をかけました
あの女のところへ 電話をかけました
いやな私です
(『「元気ですか」』より)

⇒『「元気ですか」』(レコチョク試聴あり)

⇒『「元気ですか」』の記事はコチラ

先月ニューアルバム『愛していると云ってくれ』をリリースしたばかりの中島みゆき。
アルバムの1曲目は、『「元気ですか」』という朗読の形態をとった異色の楽曲だ。

みゆき「これね、最初にいっぺんだけデモテープに録ったのね。詩を書いて最初に声に出して読んだヤツを。それでLPレコーディング用のデモテープを作って、その後に、本番のレコーディング用に読んだのね。でも、それ全部ダメだったの」
南「ダメだったってのは?」
みゆき「ワザとらしくなっちゃって」
片岡「最初のデモテープの方が良かったって訳だ」

本番に録った音は採用せず、結局アルバムに収録したものは最初に声を出して読んだ時のデモテープがそのまま用いられたのだ。

中島みゆきの曲が失恋ばかりな理由

南「男の人と上手くいかなくなっちゃうっていう歌がわりと多いですか?」
みゆき「「ハッピーだわあ」「あなたと私、世界は2人のため」ってのはないね。あらかた私、虫取り網持って追っかけてばっかりで、なかなか捕まんないんですよ」
南「信じられないわね、あなたみたいな魅力的な人が。歌の世界はぜったい嘘だと思うわ(笑)」

鍋とネギを用意しても鴨が捕まらなければ、ネギ鍋に甘んじるしかない。
だが、鴨は街を歩けば腐るほどいるのだ。

みゆき「鴨がその辺バッサバサ群れなして飛んでんのね。で、捕まえようと思ったら必ず先に捕まえてるのがいるのね」
南「連れ合いが?」
みゆき「つがいなのねぇ。つがい捕まえたって面白くも何ともないのねぇ(笑)」

『わかれうた』のヒットを疑う中島みゆき

アルバム『愛していると云ってくれ』に収録されている『ミルク32』もまた、デモテープが採用されたという。
そして、中島みゆきの1970年代の代表曲『わかれうた』もこのアルバムに収められている。

わかれはいつもついて来る
幸せの後ろをついて来る
それが私のクセなのか
いつも目覚めれば独り
(『わかれうた』より)

⇒『わかれうた』(レコチョク試聴あり)

⇒『わかれうた』の記事はコチラ

南「『わかれうた』って圧倒的にヒットしたでしょ?」
みゆき「ヒットしたのかヒットしてないのか、あんまり私自身は実感がないの。ラジオかけても耳にしなかったし、街を歩いてても聞かなかったし。「ホントかしら?」って思ったんだけどね」

『わかれうた』は、中島みゆきにとって初のオリコンチャートトップ10入り&1位獲得シングルだ。

みゆき「業界誌みたいなのに順位が出るでしょ? 私、あれ、旅に行っててしばらく見てなかったんだけど、最初に見たときは4位とか来てる時だったのよね」

だが疑い深い中島みゆきは、それを真に受けなかった。

みゆき「「いやあ意地悪いことするもんだなあ」と思ってね、「きっと誰かが4位のところに『わかれうた』って書いたテープをひっつけて驚かそうとしてんだ」って思ってね、私、そこを一生懸命剥がそうとしたのよ(笑)」

実感が湧かなかった中島みゆきに対し、安田南は、街中や喫茶店でよくこの曲を耳にする機会があった。
とはいえ、やはり、中島みゆきにとって自分の曲は、とうてい流行歌と呼べるような性格を帯びているとは思えないのだ。

みゆき「すごいのぺ~ってした歌でしょ? あんまり影響力ないんじゃないかって」

中島みゆきは、流行歌のいい例としてピンクレディーを引き合いに出す。

みゆき「ピンクレディーが売れたとなれば、世の中ピンクレディー一色になったような気がするのね。でも、決して『わかれうた』で世の中一色になったとは思えないしね」

歌うごとに声が違う

アルバム『愛していると云ってくれ』の中で安田南がとりわけ気に入っているのが『ミルク32』だ。
この曲の歌声が南の心を惹きつけたらしい。
曲ごとに歌声が違うのは、意識してのことなのだろうか?

みゆき「技術的にってことはしないですよね。例えば3回録ろうとする時に、それをダブらせるから3回とも同じ感じで歌ってくださいって言われても困るのよね」
南「この曲は個人的に好き。これ、買うわ」
みゆき「いやあよかったよかった。帰りにうどん食って帰れる(笑)」

中島みゆきにとって歌はナマモノ

片岡義男は、フォーク集の楽譜から中島みゆきの曲を探し、ピアノを弾いたり口ずさむことを密かな楽しみにしているという。

安田南『わかれうた』と初めて出会ったのは楽譜を通してだった。
雑誌の中に掲載されていた譜面を見ながら、ハミングで歌ってみたのが最初だ。
その後、本家の中島みゆきの歌を聴き、「なるほど」と改めて感銘を受けたのである。

中島みゆき曰く、この曲は、ヒットしてまだ1年も経たないのに、すでに世間から忘れられ始めている。
だが、中島みゆきからすると、曲が出来あがってからリリースされるまでの間に、すでに過去の曲になってしまっている。

みゆき「ステージで歌う時ってのは、必ずしもレコード通りではないのよね、もう。レコード通り歌うだろうなって思って来てもらうと、あたしは今、その通りに歌ってるとは限らない訳ね。ぜんぜん違う感じの『わかれうた』になっちゃったりするのね」

中島みゆきは実物とイメージは違う

片岡義男にとって、実際会った中島みゆきはイメージしていたものとはだいぶ違っていた。
曲から、もっと逞しい人物を思い描いていたようだ。
これには、安田南も同感。

南「実物は、ジャケットに写ってる感じのイメージね。幻想的な美少女って感じがすんの私は」
みゆき「極力ぼかしてもらってるから写真は(笑)」
南「私がよく子供の頃、父親に「僕のイメージしてたのと全然違う娘になった」ってよく言われたんだけど(笑)。ウチの父親が期待していたのは、どうやらあなたみたいな娘みたいなのよ、どうも」
みゆき「いま見栄張っていいカッコしてるから(笑)1時間も話せばボロが出てくる」

南は、中島みゆきをガラス細工のような繊細な心の持ち主だと分析する。

南「意外と傷つきやすくて、だから、傷つく前にものすごい防波堤を築いてね、おもしろおかしくアホみたいなことワザと言ってたりするんじゃないかって」

中島みゆきの祖先

安田南は、中島みゆきと同じ札幌出身だ。
南は、この頃、芸能界に北海道出身が増えてきたという印象を受ける。
中島みゆきが心当たりある有名人を挙げていく。

  • 関根惠子(高橋惠子)
  • 木之内みどり
  • 坂口良子
  • 大橋純子
  • 北島三郎
  • こまどり姉妹

このラインナップに中島みゆきが加わったことは、同郷の南にとって誇りだ。

南「北海道の人って、あんまりセコセコしてないのよね」
みゆき「あんまり歴史がないからじゃない? 100年くらいでしょ? 下手なことやるとご近所がひそひそってのは、あんまりないみたいな気がするね」

歴史の深い土地だと、何十代も受け継がれた土地を守るために村八分が自ずと生じてしまう。
歴史の浅い北海道ではそれがないのだという。

南「あなたの先祖は屯田兵とか?」
みゆき「ウチはあれですよ、本州あたりから食い扶持を減らすために次男三男が北海道へ流れていったでしょ? その末裔ですよ」

歌を作る時の思考回路

中島みゆきは、この頃からすでに他のアーティストに曲を提供していた。

  • 研ナオコ『あばよ』
  • 研ナオコ『かもめはかもめ』
  • 加藤登紀子『この空を飛べたら』
  • 桜田淳子『追いかけてヨコハマ』

片岡義男は、これらの曲を生み出す中島みゆきの思考回路が気になるようだ。

片岡「これらの曲の中で、この歌はこういう風にして、こんなきっかけで、こんな順序で作ったんだっていうのある?」
みゆき「ないですね。右から左へ忘れてますね(笑)」
片岡「無理に歌を作ったとかない?」
みゆき「作らなければならない時もあったけど、結局できなかったから(笑)」
片岡「LPのタイトルなんかは?」
みゆき「自分でつけてる」
南「歌の題名も自分でつけてんでしょ?」
みゆき「うん」

中島みゆきがよく行く店

店の名はライフ 自転車屋のとなり
どんなに酔っても たどりつける
店の名はライフ 自転車屋のとなり
どんなに酔っても たどりつける
(『店の名はライフ』より)

⇒『店の名はライフ』(レコチョク試聴あり)

⇒『店の名はライフ』の記事はコチラ

南「『店の名はライフ』ってのは本当にある店?」
みゆき「うん、あるの」

1977年に発表された『店の名はライフ』は、中島みゆきがデビュー前によく通っていた北海道の店がモデルだ。
安田南は、中島みゆきの著書「魔女の辞典」に書かれてある別の店も気になる様子。
札幌にあるスナック「あんただぁれ」が電話番号といっしょに掲載されている。
「魔女の辞典」には、以下のように書かれている。

すべての自称芸能人を自信喪失させて引退に導くために開設されたプロを凌ぐアマチュアダンサーズによる初心者不向き舞踏教室札幌分校お酒付き。
電話番号は011-✕✕✕-✕✕✕✕

松山千春和田アキ子も通う有名な店らしい。

南「これはよく行く店?」
みゆき「私ほとんどスナックとか行かないんだけどね、あんだれ(「あんただぁれ」の略称)とかは知ってる友達とかそこにいるから、たまに行きますけどね」
南「わりとみゆきさんって、行く店とか決まってそうな感じじゃない?」
片岡「そうね。いつか僕、雑誌で写真見たことがあるけど、お酒飲めるお店でどっかり「さあ今夜は飲むぞ」って風に写真に写ってたけど」
みゆき「どこだろ? だいたい取材で行ってる場所で写ってるんじゃないですかね」
南「酒場で撮るってのは合うんだと思う。知らないお店でも「どっかり」と写るんじゃない?(笑)」
片岡「実際は美少女だもんな」
南「うん、傷つきやすくってカワイイ小鳥みたいなさ」
みゆき「もっと褒めてぇ(笑)」

『あ・り・が・と・う』『みんな去ってしまった』のジャケット裏話

これまでにリリースした中島みゆきのアルバムジャケットに話題が及ぶ。
『あ・り・が・と・う』は1978年にリリースされた3rdアルバムだ。

南「長い髪の毛してさ、白いガーゼのお洋服着てさ、籐椅子みたいなのに足の爪切ってるみたいな」

どういう状況でこの写真は撮られたのだろう?

みゆき「あれ、近くに犬がいたのよ。犬がいてね、靴を取りに来るの。「靴持ってくなっちちゅうの」って下向いたらパシャって撮られたの」

1976年にリリースされた2ndアルバム『みんな去ってしまった』のジャケットにもエピソードがあるようだ。

みゆき「池のほとりで写真撮ってたの。「じゃ、そろそろ帰ろうか」って言って歩き出したら、松の根っこに躓いて転びかけたの。その写真」

カメラマンは田村仁
このアルバム以降ずっと中島みゆきを撮り続けている。

『愛していると云ってくれ』

1978年リリースのオリジナルアルバム。

  • 異色の朗読曲『「元気ですか」』
  • 中島みゆきの初のオリコン1位曲『わかれうた』
  • 失恋の定番曲『化粧』
  • 実在のお店のマスターがモデルになった『ミルク32』
  • 「3年B組金八先生」の挿入歌として流れ話題になった『世情』

を含む全9曲。

【収録曲】
『「元気ですか」』『怜子』『わかれうた』『海鳴り』『化粧』『ミルク32』『あほう鳥』『おまえの家』『世情』

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⇒『愛していると云ってくれ』の曲解説&みんなの感想

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