1980年4月5日に発売された7作目のアルバムに収録された
『蕎麦屋』
をみていこう。
中島みゆき『蕎麦屋』
作詞・作曲 中島みゆき
編曲 後藤次利・中島みゆき
収録アルバム
『生きていてもいいですか』
『蕎麦屋』は1980年4月5日に発売されたオリジナルアルバム『生きていてもいいですか』に収録されている。
「生きていてもいいですか」はこのアルバムに収録されている『エレーン』の中の歌詞。
他に『うらみ・ます』など中島みゆきの楽曲の中でも「暗さ」が際立つアルバム。
『歌旅 -中島みゆきコンサートツアー2007-』
『歌旅 -中島みゆきコンサートツアー2007-』(レコチョク)
2008年6月11日に発売されたライブアルバム。
2007年に行われたコンサートからの音源で、『ファイト!』『誕生』『ホームにて』『本日、未熟者』などヒット曲を含む。
歌詞の解釈
友人から「蕎麦でも食わないか」と電話で呼び出された蕎麦屋。
暖簾がバタバタ風で鳴ってラジオからの大相撲中継。
そんな店の情景と蕎麦を食いながら友人と交わす会話が歌い込まれている。
「どうでもいいけどとんがらし
そんなにかけちゃ
よくないよ」
取るに足らない会話でありつつも人物が見えてきそうな描写である。
田村仁をモデルにしたとされる説
『蕎麦屋』に出てくる人物はデビューから中島みゆきを撮ってきた写真家・田村仁とされている。
こちらについては確たるソースが見あたらないのだが、どこかの書籍でも第三者によるそのような推察がされている。
きっかけは所ジョージ
『蕎麦屋』が誕生したきっかけは所ジョージだと言われている。
当時、中島みゆきも所ジョージも『オールナイトニッポン』のパーソナリティを務めていた。
中島みゆきは月曜1部、所ジョージは火曜1部と、曜日が異なり普段は顔を合せることはないのだが、時々、互いの番組へゲストとしてお邪魔する交流が行われていた。
タモリとの対談もこの風習によって実現した。

そんな流れの中、同じ番組で顔を合せることになった中島みゆきと所ジョージ。
コーナーのゲームに負けた中島みゆきが、罰ゲーム?として作ることになったのが『蕎麦屋』だという。
1979年に所ジョージが発表した『寿司屋』という楽曲にあやかって『蕎麦屋』という曲を書けという所のリクエストに応えたものである。
『寿司屋』の歌詞
『蕎麦屋』は所ジョージの『寿司屋』を意識したような造りになっている。
所ジョージの『寿司屋』の歌詞を見てみると、『蕎麦屋』同様に友人から
「寿司屋に行って寿司でも食おう」
と誘われてるところから曲が始まっている。
「寿司屋で寿司を食うのは当たり前の事」
主人公は友人の変な日本語にツッコミを入れたり、
「このトロトロッとトロける」
とダジャレを放てば、
「刺身を食って毒にあたって死んだ方がいい」
と毒づいている。
一方、中島みゆきの『蕎麦屋』の中では、
「べつに今さらおまえの顔見て
そばなど食っても
仕方がないんだけれど」
店内での色気のない2人の会話だったり、この気の置けない距離感というのが両者の曲に共通しているように思える。
これは所ジョージへのリスペクトなのだろうか。
中島みゆきは好きなタイプの男に所ジョージを挙げているところからすると、考えられなくもない。
田村仁は中島みゆきの友人
『蕎麦屋』が、『寿司屋』の「友人を店に誘う」というパターンを真似ているとすれば、そこに登場させる友人は田村仁であっても不自然さない。
田村仁は、セカンドアルバム『みんな去ってしまった』以来ずっとレコードジャケットを始めとする多くの中島みゆきの写真を撮り続けてきた。
一方、中島も、2015年には田村仁をモデルにして書いた曲『ライカM4』を発表している。
中島みゆきが師匠と呼ぶ瀬尾一三よりも付き合いが長いのである。
主人公はやはり中島みゆきか?
『蕎麦屋』の中の「蕎麦を食おう」と誘ってきたのが田村仁だとしたら、やはり主人公は中島みゆきなのだろうか?
1人称が「あたし」と表現されているし、「麺食い」と自称している中島みゆきが蕎麦屋に誘われるというのも筋が通る。
コンサート前には天かす抜きの力うどんを食べていることを特番『オール中島みゆきナイト』の中で明かしているし、この曲の中で主人公が食べてるのは蕎麦じゃなくてうどんだし。
また、中島みゆきの著書『ジャパニーズ・スマイル』の中で、麺類が好物であること、そして、蕎麦屋のメニューを眺めていると、『あの娘』の歌詞のごとく、端から端までメロディーをつけて歌ってみたい衝動に駆られると語っている。
そこまで麺好きな中島みゆきを蕎麦屋に誘わない理由はないだろう。
「蕎麦で曲書け」と言ったのは所ジョージではあるが、一説には、所ジョージの『寿司屋』に対し、「自分なら蕎麦で書けるかも」と中島みゆきが対抗してきたともされている。
ねじめ正一による考察
1993~5年くらいだったか深夜ラジオで詩人・小説家のねじめ正一が『蕎麦屋』の歌詞をべた褒めしていた。
「どうでもいいけどとんがらし」
「風はのれんをばたばたなかせて」
「丼につかまりながら」
という歌詞を取りあげ、凡庸な歌詞の中に光るコトバを散りばめることで全体が活きてくる。
そんなコトを語っていた。
カバーしたアーティスト
斉藤和義
アルバム『ONE NIGHT ACOUSTIC RECORDING SESSION at NHK CR-509 Studio』に収録されている。
こちらはNHKのスタジオを借りて一発撮りのレコーディングで録音されたもの。
この模様はNHKの音楽番組『SONGS』でテレビ放送されている。
以前からカバーしたいと思っていたと語る斉藤和義の『蕎麦屋』はロック調に仕上げられている。
オリジナルとは全く雰囲気の異なるアレンジだが、違和感なくスッと聴き入ることができる。
中村中
『中島みゆきリスペクトライブ2017歌縁』で中村中がギターの弾き語りで歌っている。
間奏部分は、自身の口笛を交えて、深夜の蕎麦屋の物寂しさを演出している。
中島みゆきに縁のあるアーティストが多く出演しているこのコンサート。
中村中は、これまでに『夜会VOL.18 橋の下のアルカディア』や『夜会工場VOL.2』で中島みゆきと共演している。
中島みゆき本人が歌う動画
『中島みゆき ライブ リクエスト ‐歌旅・縁会・一会‐【初回盤】』
こちらは2018年に発売されたライブアルバムCDであるが、こちらの初回盤特典に『蕎麦屋』を歌う中島みゆきの映像DVDがついている。
初回盤特典DVDには、他に『ホームにて』『EAST ASIA』が収録されている。
こちらの『蕎麦屋』は弾き語りではないが、オリジナルの世界観は崩さずしっとりと歌われている。
会話調の歌詞を意識して所々セリフ口調になっている。
しかもちょっと訛っている(笑)。
『蕎麦屋』のみんなの感想
当時中島みゆきのファンだと言うと暗ーいって引かれたしわかってもらえないこと多くてそれが寂しかったけど。でも彼女にはあの頃無茶苦茶支えてもらったし今も癒しをもらってる。
で、いまだに口ずさんでしまうのが“蕎麦屋”って曲で…
「風は暖簾をバタバタ鳴かせて…」ってやつ。とても優しい曲。— nori (@norifuku9) August 14, 2020
昔父から「お前を見ると #中島みゆき の『蕎麦屋』を思い出す」と言われた。近所の寿司屋で2人でたまに飲みましたが。いい歌です。#生きていてもいいですか
— はるちよ (@haruchiyo421) July 21, 2020
みゆきさんの詩でいちばんすごいのは「蕎麦屋」。
通り一遍の歌にはまず出てこない言葉を選び、それらをつむいで情景や空気、切なさ、虚しさを表現し切っている。
「大相撲中継」に胸が締め付けられる歌なんて、他の誰に書けるだろう。#中島みゆき— Perrier (@PerrierUnholy) July 21, 2020
蕎麦屋という曲がずっと昔から大好きなんだけど、歌詞もメロディも歌い方も声も全部優しいから、つらいときに聴くと慰めてもらってるような感覚になって中島みゆきさんの優しさをすごく感じてとてもいい曲
— もりん (@morimorinbell) June 17, 2020
中島みゆきの「蕎麦屋」はいい曲だ。
暗いアルバムの暗い他の曲に埋もれて地味な扱いだけどいい曲だ。
結局世の中わかんないやつもいるさといいながら蕎麦でも食っていればなんとかなるのである。
世の中わかんないやつしかいないけどさ。
— MM Leica (@MMLeica1) June 4, 2020
『蕎麦屋』はこんな時に聴こう
ちょっと雰囲気出して蕎麦を食べたくなったそんな時、最寄りの蕎麦屋に立ち寄って、たぬきうどんとBGMに『蕎麦屋』を注文しよう。
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