2000年7月19日に発売された37作目のシングル
『地上の星』
をみていこう。
この曲ができあがった経緯から、独独の売れ方、NHK紅白歌合戦の舞台裏まで、色々まとめてみたぞ。
中島みゆき『地上の星』
作詞・作曲 中島みゆき
編曲 瀬尾一三
『地上の星』が収録されているアルバム
短篇集
2000年に発売されたオリジナルアルバム。
1曲目が『地上の星』、締めくくりの曲はシングルで両A面曲になっていた『ヘッドライト・テールライト』になっている。
他に、フジテレビ系情報番組『めざにゅ』のテーマ曲となっていた『夢の通り道を僕は歩いている』や、NHKのトーク・討論番組『真剣10代しゃべり場』の中で流されていた『Tell Me, Sister』なども収録されている。

『中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』』
『中島みゆき・21世紀ベストセレクション『前途』』(レコチョク試聴あり)
2016年に発売されたベストアルバム。
2000年以降にリリースされた楽曲から構成されていて、『地上の星』は2000年の楽曲として収められている。
他に、ももいろクローバーZに提供した『泣いてもいいんだよ』やTOKIOに提供した『宙船(そらふね)』、NHK連続テレビ小説『マッサン』の主題歌『麦の唄』など、名曲が揃っている。

『Singles 2000』
1994~2000年までにリリースされたシングル曲を集めたアルバム。
『地上の星』を初め、『空と君のあいだに』『命の別名』『糸』『旅人のうた』『ファイト!』など名曲揃いである。

『中島みゆきライヴ! Live at Sony Pictures Studios in L.A.』
こちらはライブ版。
無観客で撮影されたスタジオライブの音源アルバム。
オリジナルよりもドスの効いた歌声だ。
『地上の星』が誕生するまでの経緯
『プロジェクトX~挑戦者たち~』という番組について
2000~2005年までNHK総合で放送されたドキュメンタリー番組『プロジェクトX~挑戦者たち~』。
日本の産業や文化に貢献してきた無名な人たちにスポットライトをあて紹介するという番組。
この番組のオープニングに『地上の星』、エンディングに『ヘッドライト・テールライト』が流されている。
番組は、概ね、弱小の企業が挫折を重ねて大きな課題を乗り越えていくストーリーラインとなっているので、『地上の星』もそのイメージが世間に定着している。
今でも、大きなプロジェクトに立ち向かっていく映像に『地上の星』がBGMとして使われがちなのは、このためだ。
『プロジェクトX~挑戦者たち~』が中島みゆきに曲依頼した理由
『プロジェクトX~挑戦者たち~』のプロデューサーである今井彰。
今井はディレクター時代に挫折を味わっていた。
それは『NHK特集』の取材で日本海側のビジネスホテルを転々としていた頃のこと。
取材が難航していて諦めかけていた今井に有線放送の曲が聴こえてきた。
『ホームにて』だった。
今井はその歌に癒されたという。
それから苦難を乗り越え、『プロジェクトX~挑戦者たち~』のプロデューサーとなった。
この番組の主題歌をどうするか考えている時に、今井の頭の中には中島みゆきのあるフレーズが繰り返されていた。
それは、1998年に発表された『命の別名』の一節だった。
名もない小さな存在に「灯」をかざして、そこに「心」という名の付いた「命」を見出そうとする歌詞だ。
「無名の人々に光を照らせるのは中島みゆきしかいない」
そう思ったのだ。
さっそく今井は中島みゆきの所属するヤマハへ楽曲依頼を交渉するが、ヤマハ側は中島みゆきに負担がかかるからと難色を示す。
だが今井は諦めず、今度は中島みゆきあてに手紙と5本分の企画書を送った。
この手紙を送った後、なんと直接中島みゆきから今井に電話があった。
曲を作りましょう、という返事だった。
中島みゆきは企画書まで読んでくれていたという。
その企画書の1つが、初回の放送にもなった「富士山頂に気象レーダーを建設する男たち」の話だ。
命の危険を伴う建設。
現場に出かける前に各々の家族や恋人に遺書を書き残したという作業員のエピソードが、中島みゆきに響いたのだろうか。


『地上の星』の歌詞の意味
快く番組の主題歌を引き受けることにした中島みゆき。
だが、依頼が来た時には、ドラマでも歌番組でもない主題歌依頼ということへの戸惑いがあったという。
だが、「無名の人に光を照らす」という番組の趣旨に食指が動いたのだ。
中島みゆきは、『プロジェクトX~挑戦者たち~』のインタビューで『地上の星』が生まれた経緯を話している。
「無名の人に光をあてる」というコンセプトに悩んだ末、気づいたのは、
「自分が光をあてるまでもなく、彼らが自ら光を放っている」
ということだった。
そしたら、「地上に星がある」と思えたという。
独特の売れ方
『地上の星』は奇妙な売れ方をしている。
この曲は111万枚のミリオンセラーを記録したヒット曲だ。
だが、初週のオリコン15位から、その後順位を下げていき、ランキングの底辺をずいぶん長い間彷徨っていた曲なのだ。
そして、2002年の『NHK紅白歌合戦』の出演をきっかけに、順位を盛り返し、発売から130週目にしてオリコン1位に輝いた曲なのだ。
小さなCDショップで、仕事帰りの疲れ切ったサラリーマンによって1枚1枚買われている。
それを聞いた中島みゆきは驚きを禁じ得なかったという。
『地上の星』は、その後もオリコンランキング圏内で推移を続け、発売以降174週連続でオリコンシングルチャート100位以内を保ち続け、通算では183週のチャートインという前例のない記録を打ち立てた。
この記録は2019年、SMAPの解散騒動で売上を伸ばした『世界に一つだけの花』の通算184週オリコンチャートインによって塗りかえられてしまった。
4世代に渡ってオリコン1位
『地上の星』のオリコンランキング1位獲得により、中島みゆきは1970年代『わかれうた』、1980年代『悪女』、1990年代『空と君のあいだに』『旅人のうた』、そして2000年代の『地上の星』と、4世代にわたってオリコン1位を獲得した稀なアーティストとなった。
この4世代にわたってのオリコン1位は、他にはサザンオールスターズしかいない。




『紅白歌合戦』の裏側
瞬間最高視聴率を記録した『紅白歌合戦』
中島みゆきは2002年の『NHK紅白歌合戦』に初出場し『地上の星』を黒部ダムから生中継で歌った。
生放送での歌唱はなんと24年ぶり。
この時、この年の『紅白歌合戦』の瞬間最高視聴率52.8%を記録した。
なぜ黒部ダムなのか?
どうして富山県の黒部ダムで中島みゆきは『地上の星』を歌ったのだろうか。
中島みゆきは、『プロジェクトX~挑戦者たち~』という番組にお礼をする意味で、番組内で登場した場所のどこかで歌わせてほしいと願い出た。
その結果、富士山、青函トンネル、黒部ダムの候補の中から選ばれたのが黒部ダム。
第二次世界大戦後の復興期、関西地方の電力不足を解決するために1956年より7年の歳月をかけて黒部川に水力発電専用のダムが建設された。
秘境の地での建設は困難を極め、転落などにより171名もの作業員が命を落としている。
中島みゆきが歌った場所とは?
放送前日にはもう黒部入りしていたという中島みゆき。
バスで雪奥深くへと運ばれ、インクラインやトロッコを乗り継いでいった地中奥深くに中島みゆきが歌った場所がある。
そこは、トロッコの資材置き場。
紅白の後、
「あんな閉鎖的な空間で音が反響しないのはおかしい」
と、一部の人から疑惑が上がった。
だが、その資材置き場は特別な所だった。
『プロジェクトX~挑戦者たち~』のインタビューで中島みゆき曰く、そこは、他のところと地質が違い、音を吸ってくれていたのだ。
とはいっても、地下200メートル。
本番当日は氷点下2度。
そんな極寒の中、中島みゆきは、ノンスリーブのドレスで『地上の星』を歌いあげているのだ。
歌詞を間違えてしまった箇所とその理由
有働由美子の紹介があった後、『地上の星』のイントロが流れたのが23時を回った頃。
ワインレッドのドレス姿の中島みゆきが画面に登場。
直前までスタッフが懐で暖めていたマイクを持って歌い始める。
出だしは、オリジナルの『地上の星』よりも控えめなトーン。
1番は順調に歌い上げ、2番へと突入。
が、2番目のサビの手前の歌詞を間違えてしまった。
歌わなければならない歌詞がとっさに出なくなり、すぐに取り繕って1番の歌詞に差し替えて歌った。
2014年の紅白出場が決まった際、中島みゆきは2002年の紅白を振り返り、
「黒部のときには一生の思い出だわ、と感激のあまり、歌詞を間違えました」
とおどけてみせているが、これは違う。
最初の「草原のペガサス」という歌詞の辺りでハウリングが起き、そこで中島みゆきは一瞬焦ったのだそう。
その後も、撮影の段取りで歩いていけないポイントを歩いてしまったり、冷やっとする瞬間の積み重ねで、歌詞が吹っ飛んだという。
歌い終え、関係者から
「大丈夫です、あれは紅白バージョンですから」
と間違えた歌詞についてフォローされたと、後に中島みゆきは語っている。
名所となった黒四ダム
中島みゆきの『地上の星』が歌われた黒部川第四発電所(通称、黒四)の洞窟は、後に「みゆき広場」と呼ばれるようになり、名所となる。
本番を終え、中島みゆきは黒四小会議室で2015年を迎える。
この会議室を「みゆき御殿」、そして、ここで食べた食事を「みゆき御膳」と呼び、しばらくその食器が地下発電所に飾られていたそうな。
紅白の反響
本番を歌い終えた後、『地上の星』は急激な売上をみせた。
年明けの初週は、オリコンランキング10位にランクイン。
その次の週に、オリコンランキング1位に輝いた。
シングルにとどまらず、『地上の星』が収められたアルバム『短篇集』や『Singles 2000』も売上を伸ばし、品切れの店が相次いだ。
『地上の星』に励まされた人
土屋圭市
元レーサーの土屋圭市。
2020年2月15日号「週刊現代」の中で、プロデビューへと背中を押してくれた曲に中島みゆきの『ファイト!』を挙げていたが、引退へと背中を押したのも中島みゆきの曲、この『地上の星』だった。
若手の台頭に焦りを感じていた土屋は、たまたま観ていたNHK「プロジェクトX」から流れてきた『地上の星』に打ちのめされた。
歌詞から、自分の人生はまだ終わりではなく、新たなことを挑戦するスタートを切る時なのだと感じたという。
その後、土屋は、現役を引退し、後進の育成やレーシングカーの開発に携わっていくことになる。
土屋曰く、『地上の星』はサラリーマンの応援歌として捉えられがちだが、実はそうではなく、生きとし生けるものすべてに向けられた応援歌とのこと。

『地上の星』をカバーしたアーティスト
坂本冬美
2009年に発売されたアルバム『坂本冬美コンプリートベスト 凛~Rin~』に収録されている。
まるで日本海の荒波を連想させる歌いまわし。
演歌調『地上の星』だ。
こちらのアルバムには、中島みゆきの楽曲『化粧』も含まれている。
島津亜矢
『第69回NHK紅白歌合戦』では『時代』を歌い、その後自身のホームページがパンク状態になるほど大反響を得た島津亜矢。
島津亜矢版『地上の星』は、2010年に発売されたカバーアルバム『Singer』に収録されている。
この『Singer』はシリーズ化されていて、2020年6月時点、『Singer6』まで6枚発表されているが、どのアルバムにも中島みゆきの楽曲が収められている。
よっぽど中島みゆきのことがお好きなようで。
『地上の星』をサビの手前からドスの効いた歌声。
中島みゆきのライブでの歌唱法と近い。
大橋純子
『シルエット・ロマンス』でヒットを飛ばした大橋純子。
『地上の星』を、まるでこの『シルエット・ロマンス』のような優しい歌声で歌っている。
伴奏のフラメンコギターが、まるで砂漠をゆく旅人をイメージさせる。
大橋純子版『地上の星』は、2007年に発売されたカバーアルバム『Terra』に収録されている。
このアルバムには『時代』も収録されている。
デーモン閣下
実はラジオ番組で中島みゆきと共演したことがあるデーモン閣下。
ラジオ番組なのにバッチリメイクを決めてきたデーモン閣下に、中島みゆきはたいそう感心していた。
そのデーモン閣下が歌う『地上の星』は彼自身のキャラクターととってもマッチしている。
宇宙規模の『地上の星』を歌わせるには彼と中島みゆき以外にはいないといっていいかも。
時おりパワフルな男性のバックコーラスが入り、男くささを演出している。
デーモン閣下版『地上の星』は、2010年に発売されたカバーアルバム『GIRLS’ ROCK Best』に収録されている。
女子十二楽坊
中国の古楽器を演奏する女性音楽グループ女子十二楽坊。
こちらはインストルメンタル版『地上の星』となっている。
この曲を収めたアルバム『女子十二楽坊 〜Beautiful Energy〜』はオリコン週間ランキングで1位に輝き、166万枚を売り上げるヒットとなった。
タイアップCM曲
サントリー
「宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ」の「地上の星篇」で『地上の星』が流れていた。
トンネルの工事に従事する作業員に扮する大杉連と宇宙人役のトミー・リー・ジョーンズ。
長い掘削作業を経て最後の発破スイッチをトミー・リー・ジョーンズが押す。
爆破して青い空が覗くと、作業員みんなで万歳の声をあげる。
『プロジェクトX~挑戦者たち~』を意識しているとしか思えない。
『地上の星』のMV
『地上の星』のMVはYouTubeの公式チャンネルで観ることができる。
『地上の星』のライブ映像
『地上の星』はコンサートでもよく歌われていて、映像作品もリリースされている。
ライブで歌う『地上の星』はオリジナルよりも激しめという傾向。
『中島みゆきライヴ! Live at Sony Pictures Studios in L.A.』
2005年に発売されたDVD&Blu-ray(Blu-rayは2011年発売)。
『歌姫』や『銀の龍の背に乗って』などの代表作も収録されている。
『歌旅 ~中島みゆきコンサートツアー2007~』
2008年に発売されたDVD&Blu-ray(Blu-rayは2011年発売)。
2007年に行われたコンサートツアーから、東京国際フォーラムで行われたライブが収録された。
『ファイト!』『糸』『命の別名』『誕生』などの代表曲。
また、吉田拓郎の楽曲『唇をかみしめて』も歌っている。
中島みゆきが他人の曲を歌うというのは異例中の異例である。
『中島みゆき「縁会」2012〜3』
2014年に発売されたDVD&Blu-ray。
2012~2013年に行われたコンサートツアーのライブを収録。
『空と君のあいだに』『時代』『世情』『ヘッドライト・テールライト』など代表曲が多く収録されている。
『地上の星』のみんなの感想
こんなご時世だからこそ、みんな空の星ばかり眺めて羨むけど、地上の星、地に足着けて頑張ってる人も見れよ、という中島みゆきの歌を流す必要があったりすると思うのだ、忘れた頃にTVとかラジオは
— さあ!どんどんゲームになるのだ! (@gamecome111) June 8, 2020
深夜バイトから歩きで帰ってたら、前から歩いてくるおっさんが中島みゆきの「地上の星」を熱唱してた。多分泥酔なんやろな。深夜にうるせぇの。
でよくよく聞いたら歌詞もめちゃくちゃで、「その辺のペガサス~っと!!!」とか言ってる始末。自分の20年後がこうならない事を祈り、眠りにつく次第。
— たろーちゃん (@lacazette_1127) June 6, 2020
中島みゆきの地上の星をめちゃくちゃ上手に口笛で吹いてる人いる 夜の公園すごい
— (@_KOMIYUMMY_) June 6, 2020
地上の星を聴くとプロジェクトエッークス!を思い出すし、あの頃は父がいたな、とセンチメンタルになってしまう。ごくたまに、音楽やラジオや本や漫画なんかをきっかけに父の事を思い出してちょっぴり泣くことがある。こんな夜更けに中島みゆき聴きながらだとなおさら。
— ZKO (@Sora_moja_16) June 5, 2020
そうそう、ものづくり系部活orサークルで、作業が夜遅くまで続いてる時に「地上の星/中島みゆき」を流しながら作業すると、自分がとても壮大な何かのプロジェクトに携わっている感覚に浸ることができます。一度やってみるといいよ!(経験者は語る JA1TYE
— 可笑しすぎて涙目_bot (@namidame_bot) June 3, 2020
『地上の星』はこんな時に聴こう
『地上の星』は仕事に嫌気がさしたときに聴いて自分を鼓舞しよう。
『地上の星』はサブスク(定額制)でも聴ける
2020年1月8日よりついにサブスクリプション(定額制)で中島みゆきの曲を聴けるようになった。
『Amazon Music Unlimited』に登録すれば、月額980円(プライム会員は月額780円)で中島みゆきのシングル曲(カップリング含む)が聴き放題。
(※1975年版『時代』、映画主題歌バージョン『瞬きもせず』は含まない)
もちろん中島みゆき以外のアーティスト曲も聴くことができる。
その数、6500万曲以上。
30日間の無料お試し期間があるので、ぜひ一度試していただきたい。
『Amazon Music Unlimited』の公式サイトはコチラ。

