漫画家・さくらももこと歌手・中島みゆき、一見、繋がりのない2人に見えるが、実はさくらももこは中島みゆきのファンで、中島みゆきもさくらもも作品の読者であったことは、あまり知られていない。
1990年の『月刊カドカワ』6月号で、中島みゆきとさくらももこの対談が行われているので、そこから拾いながら2人の関係を覗いてみようと思う。
この対談では、中島みゆきのプライベートな話もちょくちょく出てきていて興味深い。
『中島みゆきオールナイトニッポン』のリスナーであった
Wikipediaによれば、さくらももこはビートたけしの『オールナイトニッポン』のファンだったらしいが、1982年頃からは中島みゆきの方の『オールナイトニッポン』も聞き始めて、ハガキも1~2度投稿したことがあるそう(読まれなかったが)。
握手券が欲しかったさくらももこ
さくらももこ「私、握手券が欲しくて、欲しくて」
握手券とは「みゆきのあくしゅ券」のこと。
これは『中島みゆきオールナイトニッポン』の中で読まれたおもしろいハガキに発行される中島みゆきと握手できる券だ。
さくらももこ「でも、見かけただけじゃ握手してもらえないんですよね?」
中島みゆき「うん、ただその券を出しただけじゃダメなんです」
みゆきと握手する方法
「みゆきのあくしゅ券」の裏には、「みゆきと握手する方法」が書かれている。
1 みゆきの握手カードを持っているというサインを送る。
みゆきと出会ったら、モンチッチのように右手の親指をしゃぶってサインを送る。
みゆきは眼が悪いから、できるだけオーバーにすること。
2 みゆきに握手カードを見せる。
みゆきがサインに気がづいたら、カードを見せよう。
そのとき『わかれうた』を口笛でふくこと。
(みゆきに無視されたら直にわかれること。
口笛のふけない人は、それだけで握手する資格がないのだ)

3 みゆきと握手する。
1と2をクリアーしたキミは、握手する権利ができた。
さっそく近くの水道で手を洗って3秒間だけ握手しよう。
大当り
もし、みゆき通りで1と2をクリアーしたキミは大幸運。
右手で5秒、左手で5秒の握手ができるのだ。
このように、中島みゆきと握手するにはいくつものハードルを超えなければならないのだ。
そんな難関をクリアしてでも握手しようとするツワモノが実際にいたのだろうか?
中島みゆき「いたんですよ、悲しいヤツが」
中島によると、コンサートで歌ってる最中に前に出てきて握手券を出してきたツワモノがいたらしい。
だが、歌ってる途中に握手できるはずもなく、ただの虚しいヤツとしてやり過ごされた。
さくらももこが聴いていた中島みゆきの曲とは?
さくらももこ「あの頃(漫画家になる前)はアルバムもホントによく聴いて、聴いて、聴いて」
そんなさくらが聴いていた中島みゆきのアルバムとはどんなものだろうか?
さくらももこ「やっぱり失恋すると髪を洗ったりしちゃうんだろうなぁ」
当時、中島みゆきの曲への感想を一例として挙げている。
曲名は明らかにしていないが、おそらく、『髪を洗う女』のことだろう。
「煙草の煙が流れない
お酒の香りが流れない
あいつの全てが流れない」
失恋した女が髪の毛に染みついた男への思いを洗い流そうとしている歌。
こちらはアルバム『予感』に収録されている。
このアルバムに収録されている『ファイト!』も聴いているはずだ。
エッセイ『もものかんづめ』
さくらももこのエッセイ『もものかんづめ』に、中島みゆきの曲が登場している。
『極楽通りへいらっしゃい』という曲だ。
さくらももこがまだ漫画家になる前、政府刊行物を作る出版社にОLとして勤めていたときに、新入社員の歓迎会で歌った曲だ。
「今日は何回頭下げたの ひとからバカだって言われたの
殴り返したい気持ちを貯めて あたしを笑いにきたんでしょ」
歌いながらこの歌詞がサラリーマンの悲しみを飲み屋の女が慰める歌であることに気づき、その場が気まずくなったエピソードが描かれている。
この曲が収録されているアルバム『miss M.』もさくらももこは聴いているはずである。
1991年に発売されたさくらももこのエッセイ集『もものかんづめ』はその軽快で独特な文体がウケて約200万部の売上を記録した。この後に出版された『さるのこしかけ』『たいのおかしら』と併せて三部作と呼ばれている。
さくらももこはどんな時に中島みゆきの曲を聴いていたのか?
恋愛経験がない時から中島みゆきの歌詞には不思議と共感するものがあったと語るさくらももこ。
そんなさくらでも、恋愛の荒波に揉まれた後に中島みゆきを聴くのは辛いらしくて、すごく気持ちのコンディションがいい時に聴くようにしていると語っている。
中島みゆき「私の歌ってどちらかというと、落ち込んで崖っぷちに立ってる人を引きとめるんじゃなくて、押しちゃう歌ですからね(笑)」
さくらももこの漫画を読んだ中島みゆきの感想
中島みゆきが最初にさくらももこのマンガを読んだのは、漫画雑誌『りぼん』だった。
思いきりがよいのとテンポがよいのが気に入ったという。
ただ、さくらももこの描く絵のタッチには、
中島みゆき「この人デッサンできるのか、できないのか、わからない人だなあって」
ワザと外して書いているのかなあと印象を持っていた中島に、
さくらももこ「あれが実力の全てなんですよ(笑)」
コンサートへの差し入れに『ちびまる子ちゃん』
NHKホールでコンサートをやったときに、中島みゆきのもとへ差し入れされたものが紙包みに入った『ちびまる子ちゃん』の単行本、4冊ほど。
『りぼん』で載っていたアレだと思った中島みゆきは、それ以来、自分で単行本を買うようにしているという。
さくらももこの仕事場は台所
さくらももこは台所で漫画を書いていることを明かす。
お腹がすいた時に好都合の場所だかららしい。
さくらももこ「煮物やりながら描いたりとかしますね」
そういえば、中島みゆきはタモリの対談でトイレでよく曲のアイディアを思いつくと話していた。
イマジネーションを刺激するとこというのは意外とこういう所なのかもしれない。

さくらももこと中島みゆきの創作の共通点
畑も作風も違う2人だが、対談の中で、創作活動での共通点を見出したようだ。
さくらももこ「記事で読んだんですけど、歌を作る時に、何ていうか、できる時期が来た時にそれがすっとできてくるというようなことが書いてあって」
中島みゆきの創作は、断片的な曲や歌詞を予めストックしておいて、そこから後に虫食い的に繋げて一曲を完成させるという手法をとっている。
つまり「寝かす」ワケだが、この寝かす時間が長い時では10年以上ということもあるのだ。
このような創作法に、さくらももこもひどく共感する。
さくらももこ「私も描きたい題材があったとしてもその月は描けなくて、半年くらい経った頃に描ける時期がくるってのがすごくあって」
互いの体の弱点
連載というのは1月前に書くべき枚数を出版社側から告げられると話すさくらももこ。
サイズが決まっていることへストレスを感じているさくらはよく胃が痛くなるんだとか。
さくらももこ「このまま行ったら私、胃の病気で死ぬと思いますね、きっと(笑)」
一方、中島みゆきの方は、気管が弱いという。
中島みゆきも『夜会』の台本や書籍もたまに出す身なので締め切りに追われることがある。
表向き余裕をぶっこいて、マネージャーに対しては「できないわ」と本音をもらすことによって、ストレスをやり過ごしているようだ。
よって胃が痛くなるのは、マネージャーの方。
自分のCDを買う人を観察する中島みゆき
さくらももこは本屋で、自分の漫画が掲載されている『りぼん』を立ち読みしていた見知らぬ女の子に声をかけたことがあった。
「コレ私が描いたの」
その時のさくらの格好はというとソバージュでアロハ服というとうてい漫画の中のまる子のイメージとはかけ離れた風貌。
女の子には「ハ?」という目で見られたんだとか。
一方、中島みゆきも似たことをしている。
レコード屋で自分のCDが置いてある周辺でジッと購入する人をウォッチングしているという。
中島みゆき「レコード屋さんで見てます」
「見てます」というくらいだから、普段やってることなのだろうか?
中島みゆきの場合、テレビに露出することはほとんどないので、普段着で立っていてもバレないという(だが気付かれたこともある。CDのジャケットとそこに立つ生の中島を交互に見比べられて冷や汗をかいたという話をラジオ番組で語っている)。
その中島の観察によると、中島みゆきのCDを購入する人は、みんな恥ずかしそうに買っていくという。
カップルでお買い上げというのは一切なく、1人でそっと来て他の品を見ながら1周りしたところですっと小脇に抱えてレジへ向かったり、他のCDと合せて紛らせる形で買ったり、裏を見せて買ったりと、各々工夫を凝らした買い方なのである。
中島みゆきだって駄作はある
漫画というのはペンで描く前にネームという下書きを行う。
このネームの段階で担当からダメだしが出たりする。
さくらももこも新人当初は、「こんなおもしろくないもんじゃダメだ!」とキツいこと言われたよう。
一方、中島みゆきもダメだしはされるよう。
中島みゆきの場合、「他のにしようか」とか「次回に回していいや」とかその辺みんな言葉選んでいるようだが。
お蔵入りした曲を聴きたがるさくらももこに、
中島みゆき「それがねぇ、後で聴くとやっぱり駄曲なんですよ、ハハハ」
中島みゆきの視力
さくらももこはコンタクトをしている。
小学生6年の頃くらいから目が悪くなり始めたという。
さくらももこ「マンガのせいなんです」
さくらももこはこの頃からマンガ好きでお風呂場まで持ち込んで読んでいたという。
中島みゆき「私もそれくらいかな」
中島みゆきは小学校6年生くらいから視力が悪くなり始めて、今は0.01もないという。
中島みゆき「私はフトンの中に本を持って入ったのがいけなかったんでしょうね」
「もう寝なさい」と言われても、フトンの中で懐中電灯の明かりを頼りに文字を辿っていたのだった。
お酒が好きな中島みゆき
対談ではお酒のことについても触れている。
さくらももこは、洋酒より日本酒派。
洋酒は気持ち悪くなるんだとか。
一方、中島みゆきも日本酒好き。
他にもウォッカも好き。
逆にダメなのは、スコッチ。
頭が痛くなるんだとか。
コンサートツアーやってる時の楽しみは、地元の酒を飲めることだと話す。
ただ、翌日の喉のコンディションを考えて、ほどほどに飲む程度だという。
『オールナイトニッポン』の後に再びラジオをやり始めた理由
この対談が行われたのは1990年のこと。
1979年から始まった『中島みゆきのオールナイトニッポン』がこの対談の3年前の1987年に幕を閉じた。
さくらももこ「また、DJをやってくださいね」
中島みゆき「実はやってるんですよ」
そう、中島みゆきは1989年からNHKFMで『ジョイフルポップ・サウンドアラカルト』という番組のパーソナリティーを務め、1990年からはその後継番組『ミュージックスクエア』を担当している。
『オールナイトニッポン』の最終回では、
「音楽に突っ走ります」
と公言したはずの中島だったが、心境の変化があったよう。
中島みゆき「カッコよく言い切って辞めたんですけどね。
『ゲストだったらいいかもしれない』『たまにだったらいいかもしれない』とか、だんだん和んできましてね」
その気持ちがラジオ界に伝わりいつのまにか番組ができてしまったという経緯なのだ。

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